よき靴/うつくしい靴

2017年6月28日

 

靴をずっと探していました。

それも出来る限り美しい靴を。

 

ある時、出張先の街中で、ひとりの女性を見かけました。

その方は佇まいから姿勢まで、どこか凛とかっこよく、かといって嫌味のない雰囲気をもった方でした。

当然、まったくの見ず知らずな方なのですが、職業柄なんとなしに目で追っていました。(すみません)
 

ふと、その方の足元に目が留まりました。

それは普段はなかなか見かけない、おそらくボタンブーツというもので、クラシカルで、控えめに艶やかな黒いブーツが、その方のスタイルをきりっと引き締めているのだと感じました。
 

いつもなら、人の履いている靴をみると(これも職業柄か)、素材の質感や表面の加工法、製法やシルエット感、あと履いている本人の雰囲気から、海外のものか国内のものか、メーカーものか職人ものかが、なんとなしにわかったりするのですが、ボタンブーツという見慣れないものだけあって、その時は見当がつきませんでした。
気にはなりましたが、まさか直接聞くわけにもいかず、次の展示会場に急いで向かっているということもあって、そのまま記憶の片隅に追いやられていきました。
 
 

それから少しして、やはり靴を探していた僕ですが、
そんな中である一人の靴職人の方の存在を知りました。
金沢にアトリエを構える立野千重さんという方です。
その方の作られる靴を写真だけですが拝見して、息をのみました。
 

一目で丁寧に作られていると判る、控えめながら色気のある圧倒的に美しい靴でした。
 

※photo:TACHINO Chie HPより拝借

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写真のブーツは立野さんの代表作といえるもので、フランス留学の際に蚤の市で出会ったアンティークのボタンブーツから起想し生まれたもので、日本人の足型に合う木型を研究し、試作と改良を繰り返して現在の型に辿り着いたそうです。
あの日、脳裏に焼き付いていたあのブーツの佇まいにたがわない雰囲気でした。
今、思い返すとあれはもしかしたら、、と感じています。
 

ちょうど関東で展示受注会が催されるということで、すぐに連絡をとり、AUTHORとして初めて革の靴をオーダーするに至りました。
会場でお逢いした立野さん自身もとても凛と美しい女性で、当日はお着物姿で丁寧にご説明していただきました。
今、文章がちょっと堅いのはその時の緊張感が、書きながら蘇っているからなのでしょう。
 
 

さて、実は写真のブーツはまだ届いていないのですが、一緒にお願いした短靴と鞄が先に届いています。
 

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“OCULI”
ラテン語で眼球を意味する、6つの眼のついたボタンシューズ。
実際には着脱しやすいように黒メッキのギボシをあしらっています。
 

表は靴底に至るまで真っ黒ですが、内側は馬革で品のある赤です。控えめに金の箔押しで、隅々まで立野さんの美学が行き届いています。
 
 

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今回オーダーしたものは女性サイズだけなのですが、展示会では男性サイズの靴を自身も試着しました。
手縫いのマッケイ製法で、足の立体にほっそり添うように成型された立野さんの靴は少しきついです。
ただ、それがひとつ、僕の思う美しい靴の条件で、既成靴でも木型から成型に至るまで人の足の形をしっかり意識したものは、まるでオーダー品の如く、ぴったりと足を包み込み、最初はきつさを感じつつも、履きなれても靴の中で足が泳ぐことなく自分と一体化してくれます。それはそのまま履きやすさや、綺麗な歩き方にも繋がっていきます。
 
 

よく、日本人は元々の足の形の特徴や、スニーカーに慣れすぎているからか、革靴をジャストより大きくゆるく履く癖があるといわれています。
その為に、靴底の減りや甲の皺の入り方がいびつになり、歩き方、果ては骨格まで歪んでしまう。
最初は多少きつくても、履いていく中で、人の動き、体温、汗などにより足の形に変化していくのが本来なのです。
 

お洒落は足元からなんて言葉は、いつの時代からか云われ続けていますが、美しい靴を、しっかりとした意志と感覚で履きこなすということは、その人自身の佇まいに大きく影響していくものだと思います。
逆に言えば、足元にしっかり気を配れる人は、自然と全体に気を配れる価値観や哲学を持っているんだろうなと思います。
是非、よき人の元へ旅立っていって欲しいと思います。
 
 

そして、一緒に届いた鞄ですが、、
 

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こちらは、立野さんがデザインし、信頼できる鞄専門の職人の方々と細部まで構造と造りを詰めて形にしたものです。
凛とした大人の女性として、またご自身がお着物をよくお召しになる際にも合わせられるように、無駄な装飾を徹底的にそぎ落としながらも
どこか親和性のある、身に着けやすいものとなっています。
 

ハンドルの付け根の金具も見えにくいようにし、がま口の口金も丁寧に吸い付くように柔らかい革で包んであります。
 

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男性目線としては、ブランドタグや無駄にきらびやかなメッキパーツなんかが悪目立ちするようなものより、こういった品のある鞄を女性には持っていただきたいのですが、、
そんなこと声高らかに主張したら、この街では恐ろしくて生きていけないのかもしれませんね。
 
 

さて、ここまで長々と書き連ねてしまいましたが、ほんとうは何も書かずにいたいんです。
ただただ、実際に目の当たりにして感じてもらいたいというのが、ほんとうのことです。
 

お目汚し、失礼しました。
最後まで緊張。