素材について

2017年9月4日

 

先にご紹介したLes Racines du Cielのコレクションに使われているベビーアルパカについて、
補足の内容になります。ご興味ございましたらお付き合いいただければ。

 

 

アルパカとは南米アンデス高原、海抜4000メートル前後の高地に生息するラクダの仲間で、インカ帝国以前からその良質な毛が珍重され家畜として人の歴史と共に歩んできました。
 
アルパカの生息する土地は、夏は40度、厳冬期はマイナス20度という過酷な環境で、その中で生き抜く為に、外気温に適応する機能を備えています。
毛質は非常に軽く柔らかで繊維として長く、糸にした際の毛羽が少なくカシミヤと同等に絹のように滑らかで毛玉ができにくいとされています。そして、保温率はウールの8倍と言われています。
また、水に対する耐性が強く、汚れが付きにくいので、適切な洗濯方法をとれば、家でも難なく手入れすることができます。
 
ベービーアルパカはその中でも、生後3ヶ月以内の柔らかい毛だけを櫛ですいて刈り取ったもので、もちろんその個体においては生涯で一度きりしか採取できない貴重なもので、もともと産毛量の少ないアルパカ毛の中でも1割に満たないものです。そのため数ある獣毛繊維のなかでも最高品の一つとされています。
 
 
と、ここまではインターネット等でも知ることができる情報です。
列挙した以外にも諸説あるのですが、おおよそこのような概要です。
 
さて、ここからは店主が触れて直に感じたことをつたない語彙力の中で書き連ねていきます。
 
 
今季、当該ブランドを迎い入れるに当たって、これは他のものを選ぶ際にも共通するのですが、いい気配を感じました。
気配ってなんぞや、となると思うのですが、明確には説明できません。お、なんかいいぞ、という印象です。
 
いつもそうなのですが、バイイングに際して、展示会などで最初にいただく資料などに記載のある蘊蓄うんぬんにはほとんど目を通しません。
そのものに触れたときにどう感じたか、と会場で説明してくださる方の言葉に宿る想い、あと、もちろん袖を通してどうだったかです。
 
そして、その気配を感じたものに対して、自分なりに考えます。何がそのように感じさせるのだろうと。
今回は明確に素材に対して、これまでに自身が出逢い体感してきたものとの違いを感じました。
 
頭の中で、ウールと比べると艶があり、先にも書きましたが絹のような滑らかな質感を感じ、手にした感覚ではカシミヤよりくったり重さを感じました。
それは実際の物質的な重さというよりも、糸そのものの存在感から感じるもので、比べてみるとカシミヤと比べても遜色ない軽さです。
上質な素材感、という表現は手垢の付いたなんともチープな感想ですが、まさにその通りな印象です。
 

 

 

案内していただいたギャラリーの方の説明で、はじめてそれがベビーアルパカ100%なのだと知り、ベビーアルパカ100%のニット生地はお恥ずかしくも自身では初めて触れたものだったので、だからなのかと腑に落ちました。
 

ことデザイン面に関しても、とてもいい印象で、ファッションブランドにありがちな無駄なディティールは無く、いい意味で簡素で、素材の力を邪魔しない、引かれたデザインでした。
これは同ブランドの掲げる、徹底したエシカルな思想のもと、貴重な素材を使うに当たって、無駄な在庫を作らず、更新され消費されていく流行とは距離を置き、永続的なベーシックとして、すべての着る人にとってのセカンドスキンになりうる存在になって欲しいとい想いの表れなのだと感じました。
 
結果的に決め手はそこだったのかもしれません。
お金を出せばいくらでも貴重でいい素材は使えます。いい素材を使えば物質的に優れた衣服は製作できるでしょう。
でもそうではない、限られた資源を利用するにあたっての慎ましさや責任感、そういった想いは作られるものに表れます。
そういった面を含めての、いい気配だったのかもしれません。
 
 
もうひとつ、セーター類とは別にショールのことを。
これがまた、明確に上質さを感じました。
 


 

 
こちらはベビーアルパカではないのですが、
チリの山奥にてアルパカの放牧を生業とする家族単位の村で、産毛、手織りされたものです。
 
アルパカという種は多色で、こちらに使われている毛は、染色を施していない自然な原毛ままの色なんです。
その為、加工によるダメージの無い、素材のそのものの艶や、ぬめりのある滑らかさがあります。
 

 
 
アルパカの有色種は元々、染色での加工が難しいという理由で、各国のアパレルメーカーにおいては白色の毛を選ぶことが多く、現地でも畜産を控える流れがあるらしく、このままだと絶滅も危惧されているようです。
その為、このように二次加工無しの毛を使用したものが製品として作られることは珍しいようです。
 
こちらもデザインにおいて、非常にプレーンで、だからこそダイレクトに素材の力が伝わってきます。
古くからアルパカと共に生き、生業としてきた村の人たちに伝わる、ありのままのものづくりに宿る魅力に勝るものはないのかもしれません。
 


 
 
質の良い獣毛の布製品は、確かな手入れでほんとうに永く使い繋げていくことができます。
こういったものを、親から子、大げさではなく孫の代まで、伝えていくことが素敵なことだと感じます。
 
 
さて、長々と書き連ねてしまいましたが、お付き合いありがとうございました。
実際には一見に勝るものは無しなので、ご興味湧きましたら、ぜひお店で触れてみてください。